或る物語



僕は目覚めた。
或る酷い悪夢からだ。

醜い。
何て醜い世界なんだろう。

空気が汚い。
羽根のない身体なんて考えられない。
やはり此処に来たのは間違って居た。

どうやら僕が一番先に目覚めたらしい。

隣にもその隣にも
向かいにも後ろにも

何百と並んだカプセルが整然と並んでいる。
僕の友人3人は未だそのカプセルの中で夢を見て居る。
悪夢に等しい。
その夢。

僕らの世界は全てが純白で彩られる正の世界だ。
秩序を愛とし、僕らは僕らを愛し続ける。

そうして、選ばれた者たちが神と名乗る事を許され、
あの汚らわしい人間界を裁く為にその身を捧げる。

近頃、この全てが平穏と平和で満ち満ちている世界に
ある娯楽が開発された。

人間としての一日を体験出来る夢見の装置だ。
僕には全く理解出来ない。

あんなにも醜い世界に、
如何して好んでこの身を堕とさなければならないのか。

だが僕の周囲はそんな事は感じて居ないようだった。

混乱などと云う言葉が辞書からも消されようとしている時代に
心の片隅で理不尽な痛みを密かに切望している。

僕には全く理解出来ない。

だがその流れに流され、
連れて来られてしまったのもこの僕だ。

カプセルの中に身を横たえた瞬間に、
何とも云えぬ眩暈と浮遊感に襲われた。

そうして気が付くと、僕は人間だった。

嗚呼、先刻までは覚えて居たその内容すら
今は思い出せない。
正に夢だ。

忌まわしい。

全くもって理不尽な世界であった。
そんな記憶というか感覚だけが深く身体に刻まれている。
思い通りになど為らぬのだ。

神にどれだけ祈ろうとも、
或る時不意に訪れる悲しみはこの身を引き裂き、
或る時突然に感じる憤りは腸が煮える様だった。

汚い空など飛びたくは無いが、
飛ぶ手段すら持たない。
鳥を羨ましく思うなどと云う愚かしい行為を、
僕は生まれて初めて体験した。


友人達が次々と目覚める。
こんな夢を見た、と口々に争っている。
其れもまた愚かしい事だとは思わないのか。
たかが夢でしかないのだ。
現実を見ろ。


全ては整然としている。
純白で彩られる世界。
秩序こそ愛。
そして全ての生き物は慈愛と共に在り、
慈しみの力が世界を救うのだ。


次に神になる選ばれた子は
一体何時現れるのだろう。


あの人間界を裁くだけの力量を持った、
その才在る子は、何時。


だがきっと彼、もしくは彼女が
あの人間界に降り立ったとして、


彼らがして居ることなど裁きでも何でもないのだ。


自らが求めて止まなかった理不尽さや
怒り、悲しみ、混乱、混沌、その全てを


自らに宿る慈悲の心の赴くままに
人間に与え続けるだけだ。


欲しくても欲しくても
夢でしか手に入れられなかったこの幸福を
君たちの現世に授けよう。


僕たちが得る事の出来なかったその全てを、
君たちに授けよう、と。







其れは正しく、
自らが信じ続けてきた愛そのもの。





スポンサーサイト

初秋の日




気が付いたらもう秋なんだよね。
こんなに長い間
部長を続ける事になるなんて思ってもみなかった。

正直疲れている部分が否めないし、
それはもうどうしようもない感情なんだと思う。

いつも、自分がやりたいことをやるためには、
メンバーにさえ頭を下げなければならなかった。

やりたい曲をやるために、
やりたくないかもしれない人に頭を下げて、
それを手伝ってもらわなきゃならない。

一緒にやろうよ、って手を差し出して
満面の笑みで彼らを迎えようと思っても、
それに共感してくれる人が少ないからね。

すべてのひとが、
同じものを見て、
同様に「良い」と感じるかどうかなんて
未知だから
仕方無いのは分かってるんだけど。

でも、もうそれに疲れた。
やりたいことがあったとして、
それはやりたいひとでやりたい。

頭を下げるのはもう疲れてしまった。

必死にライブのオファーを持ってきても、
それが実際に形になることなんて3割強

何のためにそうやって責任持ってるのか、
何のためにこの部活を引っ張っていこうと思ったのかなんて

もう忘れてしまった。

あの頃は貪欲だった。
先輩と一緒に音楽をやりたくて仕方なくて
それで頭さえ下げずに
一緒にやって下さい、って
そりゃあもう好奇心の塊で
ぶつかってた。

CDもあさるようにして聞いて、
先輩が良いというものを全て耳にして、
先輩に追いつこうとして、

そうして、音楽やってきたけど。

今じゃもう影もないんじゃないだろうか。


疲れた。
身を引こう。


あたしがやりたい音楽はきっと別にある。
本当に楽しむべき音楽が
きっとあたしを待っている。


今のバンドは楽しい。
全員が「やりたい」と言ってあたしの元に来てくれた。
練習時間に多少無理を言っても、
やりたいことだからちゃんと調整してくれる。

軽音はそういうトコが好きだ。
みんながちゃんと責任を持っている。

理解されがたく、
近寄り難いかもしれないけど、

今のこのサークルよりしっかりとした基盤を持っている。


あたしが壊したのかもしれない。
もっと前から壊れていたのが露呈したのかもしれない。


でももう何だって良い。


その年代のカラーが出るのは当然のこと。

私達の時代とは違う。
彼らがどういうものを作るのか、

あたしは
口を挟むような無粋な真似をしてはならない。


確かに残念だ。
自分の居る場所は、
全員に力を及ぼす事が出来る筈。


でも出来ない。
自分の力が足りない。
それ以前に全員が自由なのだ。


音楽も楽器も
愛しているとは決して言えない。


なくてもきっと生きていける。


でも彩りも無い。


だから欲しい。
失くしたくない。


もう余計なものを切り捨てなければ、
彩りが無くても良いから、
この物憂い感情を捨て去りたくなってしまう。


早く、早く。


あと一ヶ月。
あたしは何が出来るだろう。
あたしは何をすべきだろう。


*Easy Lazy Crazy*

安易で物憂げ
それでいて狂気的な素晴らしき日々。

穏やかでのんびりと
ただ夢中でいられる素晴らしき日々。